カケラを残す

思ったことを気ままにつらつらと。

隣の席の君

 

 

 

実習生の人数が多いから(だと思うけど)私たちは職員室に自分のデスクを与えてもらえる訳がなく、代わりに実習生の教室が与えられた。

 

いわゆる学習室、のようなものだった。

 

朝、学習室に足を踏み入れると既に数人の実習生が座っていた。

 

黒板に貼られた座席表で自分の席を確認し、指定された席に座る。

 

座席表を見た時点で気づいてはいたが、私は彼の隣だった。

 

 

彼は高校時代「イケメン」と言われていて、実際に顔は整っていたし実習の時も相変わらずだったが、その雰囲気なのか目力なのか、とにかく怖かった。

高校時代から、怖かった。

 

正直に言う。

 

座席表を確認して隣の席の彼の名前を見て、「うわ、最悪だ… 私、この人苦手なのに隣の席か…」と思った。

 

 

話したこともないのに最初から「苦手」と決めつけるなんてと思うけれど、その時は仲良くなれるとは思ってなかったのでとにかく「怖い人」という印象しかなかった。

 

 

実習中は、最初は自分の担当科目の先生や、ほかの科目でも気になる先生の授業を見学させていただくことが多く、逆に授業見学をしない時間は学習室にこもって自分の授業の指導案を練るなど授業準備をしていた。

 

ただ、彼は体育科専攻だったので実習生たちに与えられた学習室ではなく、体育教官室にいることが多かった。

 

だから、隣の席とは言え彼とはほとんど話すこともなく1週間が終わった。

 

 

強いて言うなら、1週目の最終日に少しだけ会話をした。

 

その日、私は勤務時間が終わったあとも1人で学習室に残り指導案作成をしていた。

 

ほかの実習生はみんなもう帰ったと思っていた。

 

すると突然学習室の扉が開いて、驚いてそちらを見ると彼ともう1人の体育科専攻の同級生が学習室に入ってきた。

 

彼とは話したことはなかったが、もう1人の体育科専攻の同級生であるAくんはかつてのクラスメイトだったので、

「まだ残ってたんだねー?」

と話しかけた。

 

「そうそう、俺らは体育科だから体を動かさないといけなくて。部活行ってた。久々すぎてめちゃくちゃキツかったわ〜」

 

体育科の採用試験では、筆記だけでなく実技試験もあるので、それに向けて運動もしておかなければならないらしい。

 

 

「まつげさんは、何してるの?」

 

「指導案作成してる〜」

 

「この時間までわざわざここで?偉いね、さすがまつげさん」

 

「いや、家に帰ったらしないの分かってるからさ、少しでも進めておきたくて」

 

なんてAくんと話していると、

 

「だったらカフェとか行ったら良いのに。ス○バとかタ○ーズとかあるじゃん」 

 

と、彼が突然話に入ってきた。

 

なぜ突然話に入ってきたのか、なぜス○バやタ○ーズなのかと思っていると、彼はカフェでバイトをしているとのこと。

 

え、あの強面でカフェ…?

 

私の勝手なイメージであり完全にただの偏見だが、カフェの男の店員さんって、なんとなく華奢で爽やかで優しそうな人が多いように思っていたので、あの怖い顔で、しかもスポーツをしていてムッキムキの彼がカフェだなんて似合わないなと思ってしまった。

 

そんなふうに話をして、最終的には彼ら2人ももう帰るから一緒に出ようという話になり、荷物をまとめて学校を出た。

 

しかし、Aくんと2人きりならまだしも、Aくんと彼と私の3人で校門から駅までの15分ほどの距離を歩くのは気まずいと感じた私は、校門を出て駅とは反対方向に行くと言って2人と別れた。

 

この時の気まずさは忘れられない。

 

反対方向に歩いていく道中、「いや、3人で帰るのは… 気まずすぎるでしょ…」と独りごちたものだ。

 

それほどに彼に対しては苦手意識があったし、仲良くなれないと思っていたんだと今になって思う。

 

 

そもそも、自分で言うのもどうかと思うが、私は実習中、教壇に立っても全く緊張しなかったし、元々人ともすぐに打ち解けるタイプなので、今よくよく考えてみればAくんと彼と3人でも全然問題なかったんじゃなかろうかと思う。

 

それでも、そうできなかったのは、彼がスクールカーストの上位者で、私のようなブスとは仲良くしてくれないだろうという気持ちが心のどこかにあったからだと思う。

 

仲良くなる努力をしたくなかったというよりは、仲良くなろうという姿勢を見せて彼から拒否されるのが怖かったのかもしれない。

 

彼のことが苦手というよりは、実は、拒否されるのが怖かっただけなのかも。

 

今の自分と比べると、この頃はものすごく自己肯定感が低かったのかなと思う。

 

そうして実習1週目は無事に終わった。