カケラを残す

思ったことを気ままにつらつらと。

恋愛感情

 

 

いわゆる朝帰りをした。

 

 

私は実家生で、それまで朝帰りをすることも滅多になかったので、親に怒られるなあと思いながら帰った。

 

帰りついてから、彼にはお世話になったので簡単なお礼のLINEだけ送った。

 

 

お互いにお礼を言い合えば、きっと終わるのだろうと思っていた。

 

 

 

すると、なぜかそれからずっと連絡を取り続けることになった。

 

もうこれで終わりだろうというタイミングでスタンプだけを送っても、また違う話題を提供してくる。

 

その繰り返しでLINEラリーはその後もしばらく続いていた。

 

 

私は、なぜずっとLINEを続けているのか理解しかねた。

 

彼は県外の大学で、私は地元の大学。

 

距離的にもその後会うことはないと思っていたし、連絡が続くことにも疑問しかなかった。

 

 

実習終了から1ヶ月ほどが経った頃、彼からお礼状の書き方に関する質問を受けた。

 

そもそも実習のお礼状などは、通常2週間以内に送るのがマナーだと思うのだが、部活で忙しくて書けなかったとのことで、内容を見て欲しいと写真が送られてきた。

 

私はその時、なるほどと思った。

 

お礼状の相談がしたかったから私と連絡を取り続けていたのだ、と。

 

 

いくつかアドバイスを送って、これで終わるのだと思っていると、またしても違う話題が送られてきた。

 

 

正直に言うと、かなり戸惑った。

 

 

彼にとって、私と連絡を取り合うことになんのメリットがあるのか?と疑問だった。

 

それでも、LINEのやり取りは苦ではなかったのでそのまま続けていた。

 

 

それからまた1ヶ月ほどが経った頃だろうか。

 

彼から、体育教官室に筆箱を忘れてきたという連絡を受けた。

 

 

今更気づいたの?とは思ったが、私はちょうど高校を訪れる予定にしており、その件は彼との会話の中でも出ていたことだったので、その時に受け取ってもらえないかとの依頼だった。

 

 

この時私はまたもや思った、なるほど、と。

 

 

このために私と連絡を取り続けたのか、と。

 

本当はもっと早い段階で筆箱がないことに気づいていて、高校には連絡していたのだろうが、自分は県外でなかなか取りに行けない。

 

だから近々高校を訪れるという私に、受け取りを託そうと以前から思っていたのだろう。

 

それだけをお願いするのは申し訳ないとでも思い、連絡を取り続けたのだろう。

 

 

無事に筆箱を受け取り、宅配便で送付した。

 

その旨を連絡し、今度こそ、これで最後のLINEになることを確信した。

 

 

 

しかし、やはりまた別の話題が始まり、LINEは終結しなかった。

 

 

私はこの段階で、やっと疑心を捨てることが出来た。

 

彼は、ただ友達として私と連絡を取っているのだと、大袈裟に言えば私とのLINEを楽しんでくれているのだとようやく思えた。

 

 

気がつけば、実習が終わったあと毎日欠かさず連絡を取り続けて3ヶ月が経過していた。

 

 

 

そして10月1日、私たちはそれぞれの就職先の内定式に出席した。

 

 

彼は地元の企業に就職することになっていたので、内定式に合わせて帰省していた。

 

それまでもずっと連絡を取り合っていたから当然の流れかもしれないが、2人で飲みに行こうと誘われた。

 

私はもちろん承諾した。

 

 

 

それが初めて2人で会った日だ。

 

思えば、3ヶ月以上も毎日飽きもせず連絡を取り合っていたのに、2人で会うのは初めてなんて不思議なものだ。

 

 

 

その日は、私の好きな居酒屋を予約した。

 

だし巻き玉子が絶品で、是非ともそれを彼に食べて欲しくてそのお店を選んだ。

 

 

1軒目の席の時間が来た時これでお別れかなと思ったが、彼は「まつげさんと飲むの楽しい。2軒目も良い?」と聞いてきた。

 

私は、彼とのLINEからも実際に会ってみてからも、会話のレベルというべきか、テンポのようなものが妙に合うなと感じていたので、そのまま2軒目まで行くことになった。

 

 

1軒目は完全に割り勘で、2軒目は彼が先に勘定を済ませてくれていた。

 

私は、男の人だからと奢ってもらうのは嫌だったので半分出すと言い、無理矢理お金を受け取ってもらった。

 

 

「まつげさんのそういうところ、良いと思う。」

 

 

駅までの道中、彼が言った。

 

 

「俺は部活が忙しくてあまりバイトには行けなくて、だから正直お金もそんなに持ってないから、女の子に奢るのってそんなによく思ってないんだよね。もちろん楽しい時間を過ごさせて貰えたなって思える子になら奢ってあげたいと思うけど、そうじゃない子に限って奢られるのは当然だって顔をする。俺は、そういう子とは二度と飲みに行きたくない。」

 

 

それは、きっと可愛い子や美人な子でなきゃできない態度だと思ったが、黙って彼の話を聞いていた。

 

 

「でもまつげさんは違う。話が合うし、ウマも合う。また一緒に飯行きたいなって思う。でも毎回俺が出すのは、経済的に厳しいから。今日は俺が出そうと思ってたけど、今度からはそうはいかないなって思ってた部分があって。だから出してくれて嬉しかった。ありがとう」

 

 

この時点で、最初のイメージとは全く異なる彼がそこには居た。

 

 

そもそもこんなにウマが合うとは思っていなかったし、こんなに自分の常識と合致した考えを持った人だとも思っていなかった。

 

最初がマイナスから始まっていたのもあるかもしれないけど、良い意味でギャップも感じていた。

 

 

 

「また、こっちに帰ってくる時は連絡してよ。ご飯行こう」

 

 

気付けばそう言っていた。

 

なんだかんだと言いながら、私は既に彼と友達になっていた。

 

 

彼との時間はあっという間で、居心地の良いものだった。

 

 

だけど、恋愛感情ではなかった。

それだけは、はっきりしていた。